Review


aoniが展望する、ギターロックの過去と今、そして未来

俺がサポートの仕事で仙台にいる時、aoniのやましから電話がかかってきた。

実際に会ったのは一回だけ(下北沢ERAのスマブラ大会)だけど、彼が発信する音楽や思想にとても共感できるところがあったので、その動向をいつも気にしてチェックしていた。

「新譜をリリースするので、レビューを書いてくれませんか。」

とのことで、俺なんかで良いんだろうか、と正直思うところではあるが、
やましに認めてもらえたようでなんか嬉しかったので、張り切って書いてみようと思う。


今回aoniがリリースしたのは「lost war chronicles」というE.P。

aoniが今に到るまで、どういう道筋を辿ったのか、俺はよく知らないけれど、
きっと世間でいう「ギターロック」に憤りを感じていたんだろうな、と彼らの音楽を聴いていると分かる。

そうだよな、分かる。
こう、うまく言い表せないけれど、世間で流行っているギターロックは全然ギターロックじゃない。

音楽やってる人間がジャンルでどうこう言うこと、違和感は多少なりあるけどね。笑

音楽は日々、影響を受けたルーツミュージックから変貌を遂げて、形を変えて行くものであるけれど、
俺が見たかった変貌は、今トレンドのギターロックではなくて、aoniみたいな音楽の変貌のことを指してたんだなって。

人によってはaoniの音楽を聴いた時、今までにない感じ!って思うかもしれないが、
これはaoniによるギターロックというジャンルの再提示だと、俺は感じている。

もちろん、古いもののオマージュだけで成り立っているというわけではなく、
今までのギターロックにリスペクトを持ちつつ、これからの時代で戦っていこうという意志をしっかりと感じることができる。

アルバムタイトルも直訳すると「失われた戦争の年代記」だ。
ここまで話して、これがどういう意味か、なんて語るのは野暮な話だと思うので割愛する。(まぁ全部憶測だけど)

正直アルバムタイトルを見た時、にやけた。にくいやつめ。

俺は、まだギターロックにギターロックという名前がつく前。
その時代の音楽に、ギターロックに、今も昔も魅了されている。

aoniは、そんな高校生の頃の俺が大好きだったギターロックを奏でている。


アルバム開幕、1曲目はミュージックビデオにもなっている「FIELD」から始まる。

「これだよこれ!俺が大好きなギターロックを2018年に奏でている奴らがいる!」とめちゃくちゃ嬉しくなった。

ディレイする10代の疾走感、ディストーションのかかった20代前半の焦燥感を感じる。とっても心地いい。

Aメロで鳴ってるコードとか、特にそういう雰囲気を駆り立ててる。
ちょっと踏み込んだ音楽の話になるけど、この部分の濁り方って、「よくある楽曲の途中に挟まるディミニッシュコード」とは訳が違うのね。
9thコードとaugコードを使った濁り、不協和音と協和音のハーフですね。

こういう得体の知れないコード感って、今のメインストリームにはない感じがして良い。
昔の音楽がルーツにあるんだけど、それが逆に新しいみたいなね。

間奏でのギターのアンサンブルも、USインディーを感じるようなアプローチだったりして、
彼らの音楽の素養の深さが手に取るように分かる。

ドラムもきっと意図的に歪んでるし、聴きどころ満載の曲だね。褒めちぎってるやん俺。


FIELDの余韻も冷めやらぬまま、2曲目の「scarecrows」
いつからかポップでキャッチーにしないと、
肩身が狭くなってしまったギターロックに対するアンチテーゼのような楽曲だ。

どんな時代に生きてたってBPM190前後のエイトビートは、男の憧れなんですよ。
イントロのギターのフレーズは口ずさめるような、覚えやすいフレーズじゃなくていいんすよ。

って曲が言ってるよ。

Aメロのメロディーアプローチも斜に構えたようで、どこか人のことバカにしたような歌い方で、めちゃくちゃかっこいいね。やっぱりどこか懐かしい。

退廃的なメロディーアプローチから一転、セツナライドなBメロ、攻撃的なサビ。
一曲の中でいろんな表情が見える曲って、何回も聴いちゃう、感情の移り変わりのイメージを強く受ける。

最後のシャウト部分も最近よくある所謂「the cabs系」のシャウトじゃないところとか、ツボ。


雰囲気は一変、3曲目の「brother」
ギターが2本いるのに、二人ともコード弾いちゃうイントロ大好きなんだよね。
aoni屈指のミドルチューンだと思う。
サポートギターのいくとのフレーズが、メロディーとうまく調和していて気持ちいい。特にサビ。

昨今、
楽曲の印象として極端に明るかったり、極端に暗かったり、時代の流れからか分からないけれど、はっきりとした温度感が求められている気がしている。

そんな中この『brother』のような、
「明るいのに暗い、でもどこか感傷的で飄々としていて、前向きになれる」音楽を聴くと、
何故かとっても報われたような、冴えないお前でも生きていていいんだよと言われたような気になる。

要はエモいってことです。

このアルバムを形成する上で絶対必要な楽曲だよなぁ。とても好き。


ラスト、4曲目「glider」
比較的ドロっとした印象だったこのアルバムのラストに、
ウィルキンソンのジンジャーエールみたいな爽やかな楽曲をぶち込んできましたね。

ウィルキンソンのジンジャーエールって、
カナダドライのと違って、甘いのにちょっと生姜味が強くて、ピリッとしてるんだよね。
これが上でも述べたような、明るくも暗くも感じるってことに繋がる。

KOTORIの横ティンと話してたんだけど、2サビの入り方まじで秀逸。
aoniの曲ってアレンジの細部まで、こだわりが見えるんだ。どんな芸術も神は細部に宿るみたい。

あと、ど頭のサビ後のバスとスネアの頭打ちで2本のギターが絡む瞬間なんかは、USエモの空気感を感じざるを得ない。
でも洋楽ナイズドされ過ぎてる訳でもなく、あくまでギターロック、邦ロック。
そこがこの曲、いや、aoniの一番の魅力な気がする。

 

と、死ぬほど褒めちぎった訳なんですが、嘘は一個も書いてません。

教室の隅っこで突っ伏してる人にこそ、社会に出て理不尽に押しつぶされそうになっている人にこそ、
納得いかないまま女の子に振られた男にこそ、大好きだったのに相手の浮気が原因で別れてしまった女の子にこそ、

聴いてほしいっすね。このド名盤。

俺が学生の頃aoniの音楽に出会っていたら、きっとコピバンしてた。そのくらい好き。


新たな未来を切り開くことができるのは、時代に逆行した奴らだけ。
aoniはそういうバンドだって信じています。

こういうバンドが売れていってほしいよ、俺は。

改めて、発売おめでとう。最高です!!


text by

かわぐちじゅんた 

1994年生まれ。Fallsheeps ギターボーカル、Made in Me.ギター、音楽WEBメディアANNOWN運営、と多方面で活動中。Apple Music内でのプレイリスト作成やANNOWNでの記事執筆、音楽理論のレッスンなど、制作以外の分野でも才能を発揮している。

 

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